人材不足は起こるべくして起こっている。—人材不足を根本的に解決する[後編]【概論#5】
あなたの会社で、“辞めてほしくない人”ほど辞めていませんか?
「会社のことは好きなんだけど──」
そう言い残して去っていく社員を、これまでに見送った経験はないでしょうか。
人材不足の本質は、採用できないことよりも、育った人が会社に残れないことにあります。
しかも、その多くは“能力がない人”ではなく、能力もやる気もあるのに辞めてしまう人です。
なぜ、そんなことが起きてしまうのか。
前回は、「言ったもん負け」の構造や、ビジョンだけに共感して人が集まるわけではないことをお伝えしました。
今回はその続編として、なぜ“ビジョン”こそが人材不足を根本的に解決する鍵になるのかを考えていきます
📝この連載について
この連載「アイデンティティ経営概論」では
株式会社SASI代表・近藤清人が13年以上にわたり実践してきた「アイデンティティ経営」の考え方やノウハウを、あらためて言語化・体系化しながらお届けします。
SASIは、「日本の100年を、ひとりの気持ちから」というビジョンのもと、企業のアイデンティティに根ざした経営変革を支援してきたチームです。
経営者や組織が「自分たちらしさ」と向き合い、内側から変革を起こすこと。
その過程に徹底して伴走する姿勢を大切にしています。
この連載では
アイデンティティ経営の“基本の「き」”から
その背景・効果・プロセス・活用法に至るまでを、毎月少しずつ丁寧に紐解いていきます。
1. 「会社は好きだけど辞める人」が生まれる理由
ここからは、SASI代表・近藤清人の言葉で綴っていきます。
皆さんの周りにも、こんな方がいませんか?
「会社(会社の仲間)のことは好きなんだけど、〇〇なので辞めます。」
この言葉の2つの要素
(A)「会社(会社の仲間)のことは好き」──そして、(B)「〇〇なので辞めます」。
(A)の部分には嘘はありません。
しかし、(B)の「〇〇」──たとえば「家族と過ごしたい」「資格を取りたい」「先輩に誘われた」──
これらは本当の理由であると同時に、本音ではないことも多いのです。
その間に隠れている本当の理由は、こうかもしれません。
「会社(会社の仲間)のことは好きなんだけど、この会社にいても、なりたい(ありたい)自分でいられないので辞めます。」
・そりの合わない上司がいて、その上司に改善を求めても会社は取り合ってくれない。
・もっとこうやったら改善できる/新しいことに挑戦したいが、言うだけ無駄
・これだけ面倒な人間関係の中で、この報酬ではコスパ・タイパが悪い
──理由はさまざまですが、真の理由は会社には言ってはくれないものです。
ここで共通するのは「自分らしくいられない」という感覚です。
2. 「自分らしくいる」ことが、時代の前提になった
経営者や幹部の立場からすれば、
「何を身勝手な」「こんなに社員を大切にしているのに」と感じることもあるでしょう。
しかしこれは“根性”や“忠誠心”の問題ではありません。
むしろ、自分らしくいることを大切にできる時代になったというだけのこと。
もちろん「コスパ・タイパが悪い」と退職する人もいますが、ここで焦点を当てたいのは、能力もやる気もあるのに辞めてしまう優秀な人たちです。
彼ら・彼女らが辞めてしまう背景には、
「会社のビジョン」と「自分のありたい姿」が結びついていないという根本的なズレがあります。
3. そもそもビジョンとは何か?
「ビジョン=組織が目指す将来像」
──これは一般的な定義です。
かつては「100億円企業になる」でも立派なビジョンでした。
その社員たちは「自分達は100億円を目指している、そんな会社の一員だ」という誇りを持てたかもしれません。
しかし現在の価値観に照らし合わせると
「それで私の生活(人生)はどうなるのか?」
と冷めた思いもあるのは皆さんもお分かりじゃないでしょうか?
私たちは、ビジョンをこう捉えています。
批判的まなざしによる、社会に対してのもう一つの選択肢の実現。
つまり、既存の常識や当たり前を疑い、本質を見つめながら、社会に新たな選択肢を提示すること。
その「選択肢を提案する仕事」の積み重ねが、ビジョンに近づくプロセスなのです。
日々の仕事に目線を落として考えると、
その「提案する選択肢である仕事」一つひとつを積み重ねることで、ビジョンは少しずつ近づいていきます。
もし「どれだけ仕事をしても、ビジョンに近づいていない」と感じるなら、
それはビジョンか仕事のどちらかが、道筋に合っていないというサインです。
社会の本質を見続け、その社会に「もう一つの選択肢」を提案する仕事を確実に積み上げていく。
その積み重ねの先に描かれる未来像──それこそがビジョンであり、会社にとって欠かせない存在なのです。

4. ビジョンと人材不足をつなぐカギ
しかし、前編でも触れたように、
人は必ずしも“ビジョンだけ”に集まってくるわけではありません。
では、企業にとって不可欠なビジョンと、人材不足の解決はどうつながるのか。
答えは、
「個人のありたい姿」と「会社のありたい姿(ビジョン)」を重ね合わせることです。
ここで大切なのは「寄せる」ことではなく「重ね合わせる」こと。
会社に個人を合わせるのではなく、互いの“意味”を見出して重ねていくのです。
5. 「主語」が変わると、モチベーションは変わる
入社時、多くの人の主語は「私」です。
「(私は)ここで働けば、『こんな自分』になれるかもしれない」
しかし人はだれでも働いていく中で、会社を自分の生活のお金を稼ぐための基盤という気持ちが湧いてきます。
そうなると、主語が「会社」に変わっていきます。
「会社がやろうとしていることを、私がやっている」
すると、自分の成長やあり方が見えにくくなり、やがて離職へとつながります。
だからこそ、もう一度主語を「私」に戻すことが大切です。
6. 「重ね合わせ」を実現する4つのステップ
では、どうすれば個人と会社の“ありたい姿”を重ね合わせられるのか。
そのためのステップは次の4つです。
1.会社のこれまでの仕事の「意味」を知る
なぜ創業されたのか? なぜ今の形になったのか?
2.未来に作りたい「意味」を想像する
これから社会にどんな選択肢を提案していくのか?
👉 詳しくは概論#3「美意識(アイデンティティ)が事業を駆動させる」を参照。
3.自分自身を振り返り、働き方に覚悟を持つ
経営者と同じく、社員も「自分のアイデンティティ」から価値観とあり方を掘り下げる。
そうすることで主語がもう一度(私)に戻り、自分のために成長したいという意欲が湧いてくる
👉 詳しくは概論#1「“自分らしさ”から始まる!?事業と組織の変革」を参照
4.仲間と働く意味を考え、共創する
「自分らしくある」ことを仲間と重ね、社会に価値を届ける。
ありたい自分であるためにも、その価値を社会に届けるには自分1人ででよりも、仲間と会社と行った方が価値が倍増する。
会社のビジョンの意味と自分の働く意味を重ね合わせ、仲間と共創することで、これまでの仕事と一味も二味も変わってくると言うことがよくあります。
ここまで来て初めて、個人と会社のビジョンが重なり合う状態が生まれます。

7. 組織の内側からリーダーが育つとき
私たちも、この“重ね合わせ”を実現するために多くの企業を支援してきました。
すると、外から優秀な人材を獲得しなくても、社内から次世代リーダーが自然と現れ、自発的に組織を動かしていくようになります。
その結果
人材不足の解消だけでなく、中長期的な売上・利益にもつながっているのです。
おわりに
外から採用することももちろん大切。
けれど本当に大事なのは、組織の内側から自立性を高め、次世代のリーダーを育てていくこと。
それこそが、人材不足を根本的に解決する最も確かな方法です。
