アクティブなライフスタイルを世界に発信する靴下メーカー

課題   OEM生産からの脱却
その背景 靴下業界のコモディティ化
地域資源 80年の靴下づくりの知識、糸素材の組合せなどのノウハウ
着目点  スポーツや趣味などのライフスタイル提案
解決方法 ファッション性と機能性を兼ね備えたライフスタイルブランドづくり

靴下OEMで高い技術力を誇る昌和莫大小は、安価な輸入品の台頭や素材の値下げ要求に強い違和感を抱えていた。「消費者を騙している気がする」。その感情を原動力に、探究心と個性を起点にSASIと共創した自社ブランド「OLENO」は、NYでの鮮烈なデビューを経て、裸足靴下やボトルクーラーなど唯一無二の商品を展開。今ではプロも愛用する主力事業に成長し、全社利益の6割超を占めるブランドへと進化を遂げている。

「こんなものづくりでいいのか?」ーブランドマークだけで価値が決まる現実への違和感─ 課題と背景

奈良県広陵町で80年続く昌和莫大小は、靴下OEM生産で成長しました。しかし、2003年に井上社長が会社を継いだ頃には、安価な輸入品に押され、靴下の価値が見失われつつありました。

2005年、本社工場が火災に見舞われ、大半の編機が使用不能に。この危機に、井上社長は「これまで通り防寒用の編機を入れていいものか?」と深く悩み、3ヶ月の熟考の末、ファッション性の高いイタリア製ロナティー社の編機導入を決断されました。これは、「ものづくりで『驚き』を与えたい」という井上社長の情熱が導いた「賭け」でした。

しかし、2010年代に入ると、高級ブランドからも「3足1000円でできるような素材で作ってくれ」という要求が増加。井上社長は「ブランドマークだけつけてお客さんを騙している」と、怒りにも似た強い不満を募らせ、「こんなものづくりでいいのか?」と自問自答を繰り返されたそうです。

自社ブランド「CLEAR」を立ち上げるも販売が伸び悩み、「どう売ったら良いかわからない」という手詰まりの状況が、井上社長を奈良県のよろず支援拠点へと向かわせ、SASIとの出会いに繋がりました。

「売れそうなものじゃなく、自分なら絶対に買うものを」─ アイデンティティの発見

SASIが昌和莫大小を初めて訪れたのは2015年10月。私たちは井上社長に「靴下、タイツを製造することで、何が喜びであるか?」「社会をどのように変えたいか?」といった、本質を深く問う問いを投げかけました。

ヒアリングを通じ、私たちは井上社長の際立った個性と、既存の「履ければよい」という概念を遥かに超えた、靴下への深いこだわりを目の当たりにしました。SASIは井上社長に「売れそうなものはあまり売れない。自分なら絶対に買うというものでないと売れない」と伝え、ファッショナブルで活動的な井上社長自身のライフスタイルこそ、「井上社長らしいものづくり」のヒントになると考えました。

数回のヒアリング後、SASIと井上社長、能丸部長で話し合い、「私はブランドの枠組みなどをデザインするので、実際の商品のデザインはお二人がしてください。お二人が好きなデザインが一番良いと思います」とSASIが提案。井上社長の純粋な「好き」を追求することで、真の自己表現につながるものづくりを目指す体制を築きました。

「オレノ」で世界に挑む──情熱と驚きを編み込んだ新ブランド戦略─ ブランド構築とデザインの意図

SASIは、OEMのように「相手に合わせる」のではなく、井上社長の「これが自分である」というものづくり精神を追求すべきだと考えました。そこで、祖父の商標「俺の」を受け継ぎつつ、井上社長自身の個性を反映させたブランド名「OLENO」を考案。「自己表現ができるブランド」を目指しました。

私たちは、「スポーツ」「トレッキング」「キャンピング」「DIY」といった、井上社長のライフスタイルとも重なる多様なシーンに対応する製品展開を提案しました。

特に目玉としたのが、奈良県や地元大学と連携して開発を進めていた、裸足で走ることをサポートする画期的な「はだし靴下」です。防弾チョッキにも使われる糸を使用し、通常のソックスの700倍以上の強度を持つこの商品は、ベアフットランニングや子供の足育など、幅広い用途で注目を集めました。

また、靴下の技術を応用した「ボトルクーラー」も展開。これは井上社長がキャンプやワインを愛好していることから着想を得た、水に湿らせるだけで保冷可能なユニークな商品です。

こうして、「Fashion, Function」というコンセプトのもと、活動したくなるファッショナブルさと、活動を力強くサポートする驚きのある機能を兼ね備えた「OLENO」ブランドが誕生しました。

プロも愛用するブランドに成長し、全社利益の6割強を生む柱へ─ プロジェクトの影響

SASIとの取り組み開始から1年半後の2017年2月、「OLENO」はニューヨークの展示会「NY NOW」で鮮烈なブランドデビューを果たしました。「靴下のまち奈良県広陵町から世界に」という強い想いのもと、奈良県のサポートも得て、デビュー地にニューヨークを選定。

出展が決まると、「はだし靴下」や「ボトルクーラー」といった井上社長の情熱が詰まった商品のインパクトが瞬く間にメディアの注目を集め、民放各社やNHKから取材が殺到しました。その影響は絶大で、自社ECサイトの売上は順調に伸び、国内外からの引き合いも増加。確かな手応えを感じています。

何よりも大きな変化は、昌和莫大小自身が「これが『オレノ』ブランドである」と揺るぎない主体性を持てるようになったことです。井上社長は「会社の規模はコンパクトになったとしてもよい。それよりも自分たちのこだわりを詰め込んだものづくりの価値が世界の人々に伝わるような会社を作りたい」と、その強い決意を語ってくれました。

井上社長は、あの工場火災がなければ、今の会社はなかったかもしれないと話されています。ご自身の好きなファッションに振り切ることができたからこそ、今も挑戦し続けられているのでしょう。今後は、この新しいブランドを通して、ものづくりを直接お客様に届けたいという熱い想いを抱いておられます。

クライアントの声

「弊社の商品開発、ブランディングに関わっていただいてから、弊社の考え方やものづくりの本質を更に考えるようになりました。今まで出来ていなかった情報収集や発信が徐々にできるようになり、今までの仕事範囲以外からの反響や繋がりも感じることが出来るようになってきました。更なる展開へのワクワク感を感じながら日々、SASIと奮闘しています。」