なぜ アイデンティティたる「美意識」が事業を駆動させるのか?【概論#3】
あなたは、自分の「生き方」を立ち止まって考える機会を持っていますか?
普段の経営や怒涛のような業務に追われる中で、つい後回しにしてしまうものかもしれません。
しかし実は、この「生き方を問うこと」こそが、事業を駆動させ続ける大切な起点になります。
なぜなら、失敗や挫折を繰り返しても挑戦を続けられる人は、
心の奥にある 衝動や覚悟 に支えられているからです。
そして、その根底にあるのが一人ひとりのアイデンティティたる 美意識なのです。
今回は、アイデンティティ経営における「美意識」がなぜ事業を駆動させるのかを考えていきます。
📝この連載について
この連載「アイデンティティ経営概論」では
株式会社SASI代表・近藤清人が13年以上にわたり実践してきた「アイデンティティ経営」の考え方やノウハウを、あらためて言語化・体系化しながらお届けします。
SASIは、「日本の100年を、ひとりの気持ちから」というビジョンのもと、企業のアイデンティティに根ざした経営変革を支援してきたチームです。
経営者や組織が「自分たちらしさ」と向き合い、内側から変革を起こすこと。
その過程に徹底して伴走する姿勢を大切にしています。
この連載では
アイデンティティ経営の“基本の「き」”から
その背景・効果・プロセス・活用法に至るまでを、毎月少しずつ丁寧に紐解いていきます。
1. 生き方を問うことから始まる
ここからは、SASI代表・近藤清人の言葉で綴っていきます。
まずアイデンティティ経営とは概論#1でも綴ったように、
アイデンティティ経営とは、個人や企業がこれまでの経験や歴史から生まれた価値観や本質を対話で深掘りし、その独自のアイデンティティ・強みを活かして無形資産を創造・活用し、中長期的な利益を生み出す経営
と定義しています。
詳しくはこちらをご覧ください。
企業のこれまでの歩み、とくに個人の経験や歴史からと言われてもいきなりそれを経営のもたらす「価値」へ昇華するのは容易でないように感じます。
アイデンティティ経営を大きく捉えると以下のようになります。

アイデンティティ経営は、「アート思考」「デザイン思考」「エフェクチュエーション」という思考法や経営論理をベースに構成されています。
その大きな特徴は、
まずは個人として、これまでの、そしてこれからの「生き方」を問うというところから始まります。
普段、経営や怒涛のような目の前の仕事をこなしていると、自身の「生き方」について立ち止まって考えることは少ないように思います。
いきなり事業のことを考えるよりも、生き方を問うことにはどんな優位性があるのか?と感じるかもしれません。
それには#2でお話しした「衝動」や「覚悟」が大きく関係してきます。
2. 衝動と覚悟が挑戦を支える
事業案やアイデアのほとんどはうまく「成功」を収めることができない。
3/1000と言われるほど、新規事業は厳しい世界でもあります。
だからこそ、「何度も何度も」形を変えながらでも挑戦していくには、衝動や覚悟が必要となってきます。
その何度となく変化していくアプローチの中で出てくる産物としてのプロダクトが世の中に広まり、成功を収めていく。
その過程にアイデンティティたる 美意識が貫かれているからこそ、人々に共感を呼び、事業者自身の成功に近づきます。
そのためには一度立ち止まり、「生き方」を問うところから始めることが非常に大切になってきます。
その生き方から自身が大切にしている価値観であるアイデンティティたる「美意識」に気づき、その気づきから衝動が生まれるのです。
3. 意味を問うことの重要性
次に(実際の現場ではほぼ同時になりますが)、
「意味」を問う段階に入ります。
これは今目の前にある仕事や、現在やっている事業、ここに集まっている仲間などの意味のことです。
例えば、ネジを作っている製造業であれば、その意味を問う?と言われても
「単にネジを作っている」
「仕様書通りに納品する」
というように、目の前に現れていて、現在重要にしているものさしのみで見てしまいがちです。
そうではなく、事業や資源を美意識と掛け合わせ、
「どのように活用できるだろう?」
「どのような意味を持たせられるだろう?」
と深く掘り続けることが重要です。
4. 事例:日東社に見る「意味の更新」
株式会社日東社は兵庫県姫路市にある日本一のマッチ製造の会社です。
しかし、マッチの需要は著しく減少し、現在日本でマッチを製造できる会社は二社しか残っていません。
事業承継者である大西潤さんの「生き方」を幼少期からたどり、ヒアリングを重ねる中で見えてきた美意識は、
「人の力を引き出してその先にまちをつくること」 でした。
そのうえで現在の事業であるマッチについても、その「意味」を深めていきました。
ある時にマッチの語源を辿ると「練り合わせる」「仲間になる」という言葉に出会いました。
火をつけるためのマッチだけでなく、タイトルマッチなどから、衝突したあとに仲間になるというイメージはわかります。
しかし、衝突(火をつける行為では「擦る」イメージ)と「練り合わせる」という表現の違和感が拭えず
今度は「練り合わせる」という言葉を調べてみると、その「練り合わせ」の言葉の代表例として日本三大奇祭の一つでもある「灘のけんか祭り」という新たな言葉が出てきました。
この話を事業者である大西潤さんにしてみると、
「灘のけんか祭りは、当社のある地域の祭りなんです。」
「マッチとけんか祭りが『練り合わせ』という言葉でつながっているとは本当に驚きました。」
と目を輝かせながら、その意味を深めながら話していきました。
マッチの原料を“練り合わせる”工程と、祭りにおける人と人との“練り合わせ”。
偶然の一致に見えながら、日東社のものづくりと地域文化を結びつける必然のキーワードに思えました。
このプロセスを通じて、
「心理的安全性を保ち、建設的なけんか(セッション)によって経営に新たな『火』を興す。
当社はまち(マッチ)づくりカンパニーである」
という「意味」が生まれました。


この時のエピソードは大西潤さんが出演の「アイデンティティ経営ラジオ」の中でも語られていますので、ぜひお聴きください。
こちらから。
5. まとめ──美意識が挑戦を駆動する
自身の美意識と、目の前にある事業や資源の意味が交差し、新しい意味に更新されることで衝動が湧き出る。
このフェーズを大切にすることが、挑戦を駆動する原動力となります。
一度意味を更新できると、新たな挑戦へと自走し、事業を動かし続けることができます。
おわりに
今回は「生き方」と「意味」を問うことから始まる、アイデンティティ経営の基礎的なフェーズをお話ししました。
次回以降は、その美意識と事業が掛け合わさったときに、どのように事業が変わっていくのかを段階的に語っていきます。
引き続き、どうぞよろしくお願いします。
