伝統の「価値」を新たに伝える醤油蔵

課題   若者への天然醸造の醤油の価値の伝達
その背景 速醸という天然ではない醤油作りの一般化
地域資源 蔵に住みつく微生物と但馬や日本各地の優良な原材料
着目点  古臭くない醤油の見せ方と本物感
解決方法 あえて寡黙で、説明的ではないデザインを施す

速醸製法が一般化し、国産原料による天然醸造の醤油は市場全体のわずか1.7%。そんな状況に危機感を抱き、父の代から続く「いのちをつなぐ食べ物づくり」の姿勢を受け継ぎ、天然醸造・無添加の醤油造りにこだわってきた大徳醤油。
しかし、その価値が若い世代に届かない課題を抱えていた。SASIとの共創によって生まれたのは、あえて説明しすぎないミニマルなデザインと、ライフスタイルとして“選ばれる”見せ方。「魚醤」などの新商品開発を通じて販路を広げ、今では全国の感度の高い店に展開。クラウドファンディング成功や海外販路の開拓も実現し、伝統を守る挑戦は次の世代へと進化している。

「水より安い醤油」っておかしくないですか?─課題と背景

「大豆と小麦と塩で造った醤油が、水より安く売られているのは、おかしくないですか?」
そう語るのは、大徳醤油専務・浄慶拓志氏。全国に7000軒あった醤油蔵は今や1500軒ほどに減り、その大半が速醸と呼ばれる人工的な醸造法で造られた製品を出荷している。一方、四季の温度変化と杉蔵に住みつく微生物の働きに委ねる天然醸造は、仕込みに1年以上を要する。国産原料による天然醸造は、現在わずか1.7%のシェアしかない(農水省調べ)。
かつては大量生産型の工場設立も検討したが、現社長(父)の代で天然醸造・無添加へと大きく舵を切った。その意思を継いだ浄慶氏は、「このままでは地元の高齢者にしか届かない」「若い人にこそ本物を届けたい」と考えた。だが、いくら丁寧に造っても、従来の筆文字ラベルや説明的なパッケージでは、感度の高い若者に届きにくい。伝統的な製法に誇りを持ちながらも、「古臭い」と思われる見せ方が課題となっていた。

“発酵食品の中の発酵食品”──本物を届けたい想い─ アイデンティティの発見

初めて話を聞いたとき、浄慶氏は冷静でクールな印象だった。しかし、ひとたび醤油造りの話になると、表情が変わり、熱をもって語りはじめた。「醤油は“発酵食品の中の発酵食品”」「微生物とともに造っているんです」と、工程や化学的な原理まで詳しく語るその姿に、天然醸造への強い信念がにじんでいた。
一方で、思いが強すぎるがゆえに伝える情報も多くなり、「何を、誰に届けたいか」がぼやけてしまうという課題も見えてきた。対話を重ねるなかで導き出されたキーワードが、「有機・地域・伝統」。土づくりからはじまる有機農業と微生物、兵庫・但馬の素材、そして四季の時間に委ねる天然醸造。大徳醤油の価値は、そのすべてが結びついているところにある。
さらに浄慶氏は、「醤油を通じて“かっこいい”暮らし方を提案したい」と語っていた。単なる調味料としてではなく、日々の食卓に“ライフスタイル”として天然醸造を届けたい。伝統は守るだけでなく、今の人の感性に届くかたちにアップデートしてこそ続いていく。そのための表現を、一緒に模索していくこととなった。

静かなパッケージの中に、熱い想いを閉じ込める─ ブランド構築とデザインの意図

天然醸造の価値を、まだ醤油のことをよく知らない人にも届けたい。そのためには「説明する」のではなく、「感じさせる」ことが重要だと考えた。伝えたい情報が多いほど、かえって届かない。そこで、大徳醤油のプロダクトに共通するクールな印象を保ちつつ、あえて“寡黙なデザイン”を提案した。
たとえば「ほたるいか魚醤」のパッケージは、一見するとイカのシルエットを模したような抽象的な和紙包み。その和紙を開くと、「有機・地域・伝統」という言葉とともに、天然醸造についての情報が記されている。外見は静かだが、内側は熱い──浄慶氏本人の印象をそのまま落とし込んだ構成だ。
また、魚醤の使い方がわからない層に向けて、レシピ提案や洋食との相性紹介などもパンフレットやWebで展開。デザインを起点に、商品がライフスタイルの中で自然に使われるような導線を設計した。若い世代が「気になって手に取る」きっかけを意図的に組み込み、伝統の醤油が、暮らしの中で新しい存在として選ばれていくことを目指した。

若い世代にとって、醤油は“かっこいいもの”になれる─ 動き出した変化

伝統的な天然醸造の価値を若い世代に届けたい。そんな思いから始まった挑戦は、確実に次の広がりを生み出している。
感度の高いライフスタイルショップでの取り扱いが増え、アパレル店や無印良品など、従来とは異なる販路でも支持を獲得。魚醤やドレッシングなどの新商品も含めて、販路拡大が進んだ。さらに、天然醸造という製法の「体験」を届けるため、家庭で醤油を育てる“手づくり醤油キット”を企画し、クラウドファンディングでの資金調達にも成功。商品だけでなく、文化としての天然醸造を広める一歩となった。
一方、社内の営業力強化にも取り組み、展示会出展を通じてBtoBの接点を拡大。大手コンビニやオーガニック専門店との新たな取引も生まれた。伝統的製法を守りながらも、「見せ方」「届け方」を変えることで、新しい市場と確実につながりはじめている。
「若者にとって、醤油はかっこいいものになれる」。その言葉どおり、デザインの力を借りた伝統の再構築が、静かに、しかし力強く進行している。

クライアントの声

大徳醤油株式会社
専務取締役 浄慶 拓志 氏
SASIは常に新しいことにチャレンジされていて、一緒に仕事をしていてとても楽しい会社です。代表の近藤さんとは年も近く、ただのデザイン会社で終わらないクライアントの利益も考え、提案もどんどんしてくれる頼れる兄貴的な存在です。スタッフのみなさんもそれぞれ得意分野を持っておられ、いろんな場面でいつも頼りっきりです。