「美味しい食卓」を地域と一体化した酒造りで提案する老舗酒蔵
ようやく表せた自分たちの酒
兵庫県北部の但馬地方に位置し、天空の城と呼ばれている雲海で有名な竹田城がある朝来市にある酒蔵、田治米合名会社。「一粒の米に無限の力あり」という理念のもと、地元但馬の恵みを活かした酒造りをし、地域と一体化した酒造りをめざして、元禄15年に創業した300年を超える老舗である。リニューアルには実に3年を要した。通常パッケージやラベルのデザインを変更するには3ヶ月、長くとも半年もあれば十分にできる。しかし、新商品ではなく今回は主力商品であったことと、今回のラベルには「料理との相性」と「地元への寄与」以外にも、300年続く田治米合名会社は、どのような方向を向いていくのか?ということをラベル一つで示さなければならなかった。田治米がこれまでの酒造りから、全量純米酒に変える想い、また「最終的にはオール但馬の酒造り」をしたいという地元との一体感を目指すことなど1年以上かけながらヒアリングし、少しずつ方向性を出していった。そこで導き出したコンセプトは「温故知新」。これまでの酒造りを否定するのではなく、目線を少し昔に戻して、丁寧に自分たちの手仕事で酒造りに精進する。そして地域と一体となり、一粒の米から様々な味わいを醸す酒を作ることを目指した。新たにロゴをデザインするのではなく、記録に残っている一番古い竹泉のロゴを少しだけ読みやすく加工することとなった。その髭文字と呼ばれる毛筆を模した独特の文字は、朝来市の原風景残る戦前のものであり、地元の住民の誇りを引き出すロゴとして採用した。また、地域と一体であることを示すための縞を作ることにした。それは「竹泉」と表現しながらも、斜め線から縦線でできた竹の字が「雨が降り、川になる」、泉の文字を田と米に分けて「その水が田んぼに入り、米ができる」という、地元の自然資源とともに竹泉があることを表した。3年かけて慎重に検討していったが、デザインが変わったからといってすぐに売り上げが変わるようなものでもない。特に今回は地元の消費者、特に若者層に向けての企業の存在価値を表すプロジェクトであった為、リニューアルした後の活動が重要になる。限られた社員数の中、都市部への販路拡大、海外展開、そして地元消費の喚起などやらないといけないことは山積みである。その中で、しっかりと地域と一体化した酒造りをしているということを、伝える一歩目は出来上がった。これから地元住民の誇りとして、竹泉があることを根付かせる活動のスタートを切った。地域の自然資源だけでなく、誇りに思ってくれる地元住民など、オール但馬の酒造りという田治米の夢はこれから実現する。