あの日の覚悟に、応えるために【プロデューサー:石本和也】
この連載について
この記事は、中小企業の“経営の現場”の記録です。
日々、企業とともに悩み、揺れ、言葉を探してきたSASIのプロデューサー・ディレクターが、実際に立ち会った“あの瞬間”を綴っています。
登場する企業名・人物名は仮名ですが
その場で交わされた言葉や空気、涙や沈黙はすべて本物です。
出会いは、ひとつの行政事業から
今回取り上げるのは、とあるメーカーの話です。
OEMで他社ブランドの製造からスタートし、その後、自社ブランドの企画・製造・販売へと完全に舵を切った事業者でした。
出会いは、行政機関が主催し、SASIが運営するデザイン経営の支援事業。
参加の背景には、経営者のこんな悩みがありました。
「新しいメンバーもジョインし、これからより成長していくにあたって、自分たちのブランドを明確化したい。」
私たちはセッション(対話)を通じて
徹底的に「らしさ=アイデンティティ」を深掘りします。
・どんなことに喜びを感じるのか。
・なんとしてでも無くしたくないことは何か。
・その原体験はどこにあるのか。
一見、経営と関係がないように思われるような、「個」に焦点をあてたヒアリングを重ねます。
なので
「こんなに根掘り葉掘り聞かれるとは思っていなかった」
と言われることもしばしばあります。
「ものづくり」への憧れと現実
この事業者は、学生のころから「ものづくり」に対して強烈な憧れを抱いていました。
一方で、職人のもとで働く中で、ものづくりを仕事にすることの厳しさも体感していました。
「自分が夢を見たものづくり。だからこそ次の世代の人たちにも、ものづくりの面白さを伝えていけるようなブランドにしたい。そのためには、永く続けられないといけないんです。」
彼の「永く続くこと」への想いは、今でもはっきりと覚えているほど熱量のあるものでした。
事業戦略とビジョンの接続
私たちが「らしさ=アイデンティティ」をとても大切にするのは、
それが強烈な理由になるからです。
やはり、経営やマネジメントは一筋縄ではいきません。
幾度となく壁にぶち当たりながらも、自らが望むビジョンのために、それらを乗り越えなければならない。
アイデンティティは、そのための「モノサシ」になると、私たちは考えています。
ただし、理想を掲げるだけでは経営は好転しません。
アイデンティティやビジョンから連なる、強い事業戦略やビジネスモデルが必要になります。
現場を観察すること。
社員や協力会社の方にも話を聞くこと。
競合するブランドの店舗や接客も体験すること。
プロデューサーとして「当事者」となりながら、冷静に、かつ大胆に発想していきます。
今回のプロジェクトでは、
・「永く使えること」
・「ものづくりの素早さ」
・「顧客とのつながりの深さ」
などから着想した戦略を提案し、新製品の試作まで実施しました。
これからの成長の一歩を、確かに踏み出したプロジェクトになりました。
けれど、「それどころではなかった」
行政事業の支援期間が終わり、さらに事業を前進させようとした矢先、現実が立ちはだかります。
・財務面の深刻な課題
・店舗の営業日数削減=売上減
アイデンティティやビジョン、それらに連なる戦略を「絵に描いた餅」にしないためには、中期的な経営計画が必要です。
どれだけ意義のある挑戦でも、「続けられない」のであれば実現できません。
正直に言って、支援を続けることはリスクを伴うことのように感じました。
状況を鑑みて、あえて提案をしないという判断も「誠意」かもしれない——
そんなことも頭をよぎりました。
「自分の覚悟の問題だと思っています。」
何度かセッションを重ねたある日、経営者が、はっきりと口にした言葉を今でも覚えています。
「自分の覚悟の問題だと思っています。」
プロデューサーとして、ここまで信頼を寄せていただけることに喜びを感じると同時に、
なんとしてでもブランドを成長させ、業績改善の道筋をともにつくらなければならないという、強いプレッシャーを感じました。
「ブランドの未来をつくる」ために
現在、財務状況を改善するために、短期〜中期的な視野での取り組みが立ち上がっています。
中期経営計画のシミュレーション
減少した売上をカバーするための施策立案・実行
ブランドを深めるための社内ワークショップ
SNSなどを活用したマーケティング支援
このことを力強く推進するために、
SASIからはディレクターやデザイナー、マーケターが、
クライアントからは店舗スタッフやWeb担当のメンバーが集い、
隔たりのない「ワンチーム」として機能しはじめています。
もちろん、取り組むべきことはたくさんあります。
けれど、セッションを通じて、
「こんなブランドにしたい」
「こんな組織にしたい」
そんな未来像を描きはじめることができました。
そして、そのことが仲間にも伝わりはじめています。
あの日の覚悟に、応えるために
事業者の言葉に「覚悟」が宿ることがあります。
それは、経営者だけのものではなく、伴走する私たちにも問いかけてくる。
あの日、事業者が決めた「覚悟」に応えるために。
わたしたちの挑戦は、まだ始まったばかりです。
🎧 書ききれなかった想いは、アイデンティティ経営ラジオ(旧DOOR RADIO)で
この記事では書ききれなかった想いや、今だから言える話、
動画で語られた社員一人一人の思いや裏側は
SASIのポッドキャスト番組アイデンティティ経営ラジオにて深掘りしていきます。
