『会社はわかってくれない』の正体【プロデューサー:中神奏子】
この連載について
この記事は、中小企業の“経営の現場”の記録です。
日々、企業とともに悩み、揺れ、言葉を探してきたSASIのプロデューサー・ディレクターが、実際に立ち会った“あの瞬間”を綴っています。
登場する企業名・人物名は仮名ですが
その場で交わされた言葉や空気、涙や沈黙はすべて本物です。
物語のはじまり
ある地域で長く続く建設会社。
社員は100名を超え、地域に根ざした事業を営んでいます。
私たちは、会社の「これから」を考えるビジョン策定を中心に、プロジェクトに伴走することになりました。
経営層へのヒアリング、立候補により集まった社員チームとの対話、 個別セッションやワークショップ、そして飲み会まで。
さまざまな場に関わりながら、少しずつ社内の空気に触れていきました。
でも社員の方々一人ひとりと関わっていくうちに
言葉にできない違和感が、少しずつ積もっていきました。
「本当にそうなのか?」という疑問
「部長は現場のことをわかってない」
「社長は非常識だ」
「営業部は自分のことしか考えていない」
これは、ヒアリングやワークショップの中で交わされていた言葉です。
経営層や幹部社員が社員に対して。
社員が経営層や別の部門に対して。
きっと、毎日必死に働くなかで、
「なんであの人はわかってくれないんだ」と感じる瞬間があるのだと思います。
それは、私自身も過去に組織に属する中で経験したことがあります。
だからこそ、その言葉にも共感できる部分がありました。
でも、
「本当にあの人がそんな言動をとるのか?」
フラットな立場で、いろんな方の話を聞いていたからこそ、
その言葉を聞くたびに、素朴な疑問が浮かびました。
自分が善良だとか、人を批判しない人間だとか、そんなことを言いたいわけじゃありません。
ただ、純粋に、
「本当にそうなのか?」
という問いが、私のなかにずっと残っていました。
一歩引いてしまった、あのときの後悔
ある日、経営陣と社員メンバー全員が一緒に話し合う場がありました。
全体としては、ビジョンに対する共通認識が確認でき、良い場になったと思います。
でもそのなかで、心に引っかかることがありました。
セッションは、話したい人が自発的に発言する形式で進められました。
発言していたのは主にベテラン社員の方々。
その内容はポジティブで、前向きな意見が多かった。
でも、私はどこかで「ポジティブすぎる」と感じていました。
大人数の場で発言するには勇気が必要ですし、
普段の業務における立場や関係性も、発言のしやすさに影響すると思います。
アシスタントプロデューサーの私は、その違和感を抱えていたにもかかわらず 、その場で動くことができなかった。
年上の人に一歩引いてしまう。
それは私にとって、長年の癖のようなものかもしれません。
若手社員の方々の表情や様子を見ながら、
「若手の意見も聞きたいです」と切り出す勇気が、出なかった。
私が声をかけたからといって、場が良くなるかはわからない。
でも、違和感があったのに動けなかったことに、今でも後悔が残っています。
小さな違和感から、負のループを問い直す
この会社で働く一人ひとりは、それぞれのモチベーションや目標を持ちながら、目の前の仕事に向き合っていました。
これは間違いのない事実です。
ただ、小さなコミュニケーションのズレやすれ違いが、
やがて「わかってくれない」という不満になり、
“同じ目線”の人たちで結束して自分を守ろうとする。
そして、いつしか
「あの人は、非常識だ」
「自分のことしか考えていない」
という言葉になる。
始まりは、ほんの少しのズレだったはず。
誰かを責めることで、自分の正しさを確かめたくなる。
そんな負のループが、組織にはあるのだと思います。
(※もちろん、自分を正当化することが悪いわけではありません。
否定ばかりしていては、誰だってしんどくなってしまいます。)
「本当にそうなのか?」と問い続けること
自分が誰かの言動に納得できず、悪く言いたくなったとき。
あるいは、他の誰かが誰かを責めているのを見聞きしたとき。
そのときこそ、一歩引いて、問いかけたい。
「本当にそうなのか?」
この問いを持つだけで、見え方は少し変わってくるかもしれません。
そして、自分の立ち位置も少し変わるかもしれません。
その負のループから抜け出すためにも、
日常のちょっとした「心の引っ掛かり」から問い直していくことが大切だと思います。
自分の変化を、未来の資産にしていく
私が年上の人に一歩引いてしまうのは、きっと長年の癖です。
すぐに変えられるものではないと思っています。
組織の中で起こる問題は、単純な原因ではなく、複数の要因が絡まりあっていることが多い。
だから、すぐに状況が良くなるとは限りません。
それでも、まず変えられるのは「自分自身」です。
自分を振り返り、思考から言葉へ。言葉から行動へ。
少しずつでも変化していくことはできると、私は信じています。
そして、その変化の過程自体が、
きっと誰かにとっての勇気や希望になると信じて、
これからも現場に立ち会っていきたいと思います。
🎧 書ききれなかった想いは、アイデンティティ経営ラジオ(旧DOOR RADIO)で

この記事では書ききれなかった想いや、今だから言える話、
動画で語られた社員一人一人の思いや裏側は
SASIのポッドキャスト番組アイデンティティ経営ラジオにて深掘りしていきます。
